西洋古典・ルネサンス

le sujet surpasse le disant

スタンダールはその自伝的作品、『アンリ・ブリュラールの生涯』の最終章で、自分が経験した愛について語ることのむずかしさを訴えている。自分が最も愛するものについて語ることの困難さ・不可能性というテーマはのちにバルトが取り上げることでも有名だが…

Virgil か Vergil か

ローマ最大の詩人、ウェルギリウス(Vergilius)の名前は西欧諸語に俗語化されると最初の e が i に変わることがある。例えば英語ではVirgil、フランス語ではVirgileといったつづりが一般的だ。この問題について、David Scott Wilson-Okamura, Virgil in the…

@の起源

いまやメールアドレスなどに欠かせない記号である@だが、その起源についてはどうもはっきりしないというか、正直うさんくさい話がごろごろしている。この問題について古書体学者のMarc H. Smithがまとめていたので、ここで紹介してみたい。詳しい報告のよう…

書体と老眼

B. L. Ullman はその著書 The Origin and Development of Humanistic Script(Edizioni di Storia e Letteratura, Roma, 1960)でゴシック体から人文主義書体への変化の足跡を辿っているが、その中で面白い指摘があったので紹介したい。以下の記述はほぼ全て…

'It's Greek to me'再考

英語の言い回しの一つに It's Greek to me と言うものがある。直訳すれば「これは私にはギリシア語同然だ」とでもなろうが、意味としてはつまり「ちんぷんかんぷんで理解できない」ということになる。この表現の歴史は古く、有名どころではシェイクスピアに…

メトキテス『雑録と格言』

13-14世紀のビザンツにメトキテス(Theodore Metochites, 1270-1332)という文人がいた。そのエッセイ集ともいうべき著作がこのSemeioseis Gnomikaiで、あえて和訳すれば『教訓論集』とでもなりそうだが、タイトルではブリタニカの記述に従った。この作品だ…

阿呆船

まず皮切りに一踊り。 積んだ書物は山ほどあるが とんと読みゃせぬ分かりゃせぬ。(p.20, 尾崎盛景訳) ブラントの『阿呆船』ではまず最初に「無用の書物のこと」と題された章があって、いわゆる積ん読が揶揄されている。この章が最初にあるのは著者であるブ…

フランス・ルネサンスの文明

ルネサンスというと、様々な碩学たちが現れてギリシアやローマの古典の再興に尽力した、輝かしい知の時代というイメージだが、ここで示される姿は、それを否定するとまでは言わなくとも、それとはまたちがった一面を見せてくれる。まず冒頭からして当時の人…

Controversiae

大セネカのControversiaeが意外と面白い。この本では当時弁論の練習として行われていた模擬裁判弁論から、様々な弁論家の印象的な論じ方を集めているのだが、その際弁論家の人となりについて紹介することもあって、そこがなかなか楽しく読める。例えば、アル…