L'usage du monde

ニコラ・ブーヴィエ『世界の使い方』(Nicolas Bouvier, L'usage du monde)のタイトルはモンテーニュ『エセー』からの引用になっている。『エセー』3巻11章でモンテーニュはまず最近フランスで暦が変わったことに触れ、一年というごく基本的な時間の単位がいまだに正確に確定できていないということを述べたあと、こう続ける:

Je resvassois presentement, comme je fais souvent, sur ce, combien l'humaine raison est un instrument libre et vague. Je vois ordinairement, que les hommes, aux faicts qu'on leur propose, s'amusent plus volontiers à en chercher la raison, qu'à en chercher la verité : Ils passent par dessus les presuppositions, mais ils examinent curieusement les consequences. Ils laissent les choses, et courent aux causes. Plaisans causeurs. La cognoissance des causes touche seulement celuy, qui a la conduitte des choses : non à nous, qui n'en avons que la souffrance. Et qui en avons l'usage parfaictement plein et accompli, selon nostre besoing, sans en penetrer l'origine et l'essence. Ny le vin n'en est plus plaisant à celuy qui en sçait les facultez premieres. Au contraire : et le corps et l'ame, interrompent et alterent le droit qu'ils ont de l'usage du monde, et de soy-mesmes, y meslant l'opinion de science. Les effectz nous touchent, mais les moyens, nullement. *1

よくつらつらと考えることをいまもまた思い返していたのだが、人間の理性というものはいったいどれほど勝手きままでふらふらしたものなのだろうか。目の前になにか物事が提示されると、人間はその物事の真のあり方を考えるのではなく、どうしてそうなったのかという理由の方ばかり考えているように思える。前提を飛び越して結果ばかりこねくりまわし、物事そのものは放置して原因に飛びついている。なんとも愉快な原因屋どもだ。物事の原因を知るなどということは、その物事を司る存在にのみ関係があるのであって、われわれ人間のような、ただ起きた物事を受け取るしかないような存在には関与し得ない。それに、あえて物事の起源や本質などに踏み込まずとも、われわれだって必要に応じてじゅうぶん申し分なく物事を活用できている。酒だって、その本来的特質に通じている人のほうがおいしく飲めるということもない。それどころか、本来は世界を、あるいは自己自身を、それそのものとして好きに活用できるはずなのに、学問が言っていることなどをごっちゃにしてしまって、肉体なり精神なりがその権利を邪魔して歪めている。われわれに関係あるのは結果であって、過程はどうでもいい。

どうにも日本語にしづらい上に版ごとの微妙な違いも多く、細かい点についていろいろ言いたいことがでてくる個所だが、それはさておきブーヴィエの L'usage du monde  はここを引用しているわけだ。ではそのタイトルがどのような意味づけをされているのかということはそれこそ作品そのものを受け取って考えるべきで、必要以上に「起源や本質」に踏み込むのは筋違いというものかもしれない。ともあれ、ブーヴィエの訳書などをみてもあまり指摘されていないようなので、ひとまず備忘的に記しておく。

*1:Les Essais, III, XI, éd. par Jean Balsamo, Michel Magnien et Catherine Magnien-Simonin, « Bibliothèque de la Pléiade », Gallimard, 2007, p. 1072 強調引用者